紛れもなく長距離鈍行の王者といえる存在だ。なにかと効率優先ばかりが叫ばれるご時世だが、そんな風潮には見向きもせず、厳たる己の主張を貫き通すのが2429D列車といえそうだ。「おれを味わいたければこれに乗れ」という根室本線の声が、時刻表を開けば聞こえてくるようでもある。その声に誘われるまま、私ははるばる北海道までやって来て、今、滝川の駅頭に立っている。平成一八年三月八日(水)、午前九時を少しまわったところである。未明より降りだした雪が、滝川の町を色のない世界へと変えている。今朝の最低気温はプラス〇・三度、まあ冬の北海道としては暖かなほうだが、風は冷たく、なんとなく人肌が恋しくなる朝である。駅前広場では、歩道の雪かきに数人が精を出していた。滝川9時00分着の網走行「流氷特急オホーツクの風」なるしばれそうな名の臨時特急から、大きなバッグと三脚をかついたブロカメラマンが降りてきた。今回の旅の相棒である。乗って来たのは流氷特急だが、大の台湾好きで、四目前に台湾から帰ってきたばかりという。なるほど、日焼けした顔が黒い。さて“今回の旅”であるけれど、それはもちろん2429Dを終点まで乗り通すことである。それだけのためにわざわざ内地から北海道まで馳せ参じるとは、我ながら滑稽でもあり酔狂だとは思うものの、粋人の域にまた一歩近づいたかのような気にもなってくる。
[参考情報]
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